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自転車が欲しい #1

もうずいぶん昔、今頃の季節。マウンテンバイクが日本ではやってた頃にPanasonicのMOUNTAINCATというMTBを手に入れた。グレードはアルファベット1文字で示されてていて、たぶんE。コンポーネントがDeoleLXだった。

親戚のおじさんが京都で自転車屋をやっていたので、他で買うよりお安くしてもらえるということでそこで購入することにした。そのおじさんのところで現物を受け取り、そのまま自宅までの数十キロを走って帰るプランを実行するため、ひさしぶりのそのおじさんの家にお邪魔した。こどもの頃、サイダーやカルピスを出してもらったりした思い出くらいしかないが、自転車やバイク用品を取り扱う店舗と住居が一体となったお家だ。

少しばかり手みやげを渡したり毎日暑いねといった世間話をしてから、受け取る自転車の変速機の使い方を教えてもらったりして小一時間。家まで何時間かかるかわからないのでそろそろ出ますと言って、自宅への旅に送り出してもらった。

それまでの自転車歴はこども用自転車、変速機付き20インチ車、26インチくらいのママチャリといったところ。カッコいいリトラクタブルヘッドライトな6段変速!とか、そういうのは自分では持ってなかったので、新車MTBの前3段×後7段の段数にうっとりしながら、国道24号線を南下する。

アクシデントは車道と歩道の段差越えで起こった。おじさんの店を出てから数キロ走ったところ。高架の入り口で自動車専用の道路標識があり、しまったなぁと思いつつ車道から歩道に入ることにした。歩道への2センチくらいの段差を、ハンドルを手前にひき気味に前輪で乗り越えたまではよかったが、続く後輪が乗り上げられず段差をレールのようにズルズル走って最後にはバランスを崩して転倒。初心者なのにトゥークリップなるもので足をペダルに固定していたのもよくなかった。とっさに足を地面につけることができなかったのだ。

新車で数時間のうちに初転倒。車体と人体にキズはついたものの、走りに影響はなく、そのまま夏の日の午後を数時間かけて自宅に到着することができた。

それ以来、いろいろと走ってきた。本格的な自転車乗りじゃないので、琵琶湖や淡路島をゆったりと一周したり、毎日の通勤に使ったりもした。

だんだんMTBのゴツゴツブロックパターンのタイヤが気になりだした。漕いでいてうるさいし重いしいいことなしだった。ほぼ街乗り専用なので、軽く静かに走るためスリックタイヤに交換した。世界が変わった。もう何年も乗ってきた車体がまるで別ものの用に軽く走れるようになったのだ。

もともと山を駆け下りるために生まれたMTBという乗り物を、ふつうの人がふつうの街で乗れるようにした、ふつうの人向けMTBを自転車メーカーが流行にあわせて作る。ぼくのMTBは後者だ。MTBが本来駆け巡る場所である悪路において、確実なグリップを実現するためのブロックパターンは、ふつうの人向けMTBにそのエッセンスが取り込まれ、うるさく重い走りとなってた。スリックタイヤへの交換がこの世界を変えたのだった。

そんなMTBは日夜の通勤に大活躍していたが、ある夜の大転倒から乗ることがなくなっていった。速度は出していなかったがぼんやりしていて転倒。あまり覚えていないが、通りがかったおばちゃんの話によると前輪を軸に車体ごと前転したらしい。その転倒の結果、ハンドルにあるシフトレバー部が大破し変速ができなくなった。

今でも状況は変わらないかもしれないが、変速機やブレーキと言ったコンポーネントと呼ばれるパーツは毎年のように新製品が発売され、新旧の製品間での互換性がないものに置き換わっていくことがある。

購入してからかなりの年数がたっていたそのMTBは、大破したシフトレバーの交換品がなくしばらく放置していた。通勤も電車通勤に切り換えた。自転車に乗ることが怖くなってもいた。

そんなある日、近所にスポーツ車をたくさん置いている自転車屋があるのを発見した。事故車を連れて、交換できる部品がないか相談してみることにした。予想どおり、互換性のあるパーツはないとの回答だったが、他のお客さんがパーツ交換でいらなくなった部品があり、それが使えるのではないかということで修理を依頼。走れるようにしてもらった。

自転車が走行可能になってからも、まだ乗ることへの恐怖が残っていた。結局、修理してもらってから数回くらいしか乗ることはなかった。ステム、ハンドル、ブレーキレバー、変速レバーを丸ごと移植されたことが、なんだか自分の自転車じゃないような気がしてか、そのまま放置していた。いつかレストアして乗り回す計画もおもしろそうだったが、何のアクションもなく月日だけがすぎていった。

あるとき思い立ってその自転車を処分することにした。もういちど乗れるようにする気力がなかったのもあるし、なにか新しいことを始めるために必要な儀式だったのかもしれない。

そして、その自転車の最後の写真がこれ。

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黒をベースに蒔絵のようなラメのような塗装。磨いてあげればまだまだ奇麗に使えたのかもしれない。